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水戸地方裁判所 昭和54年(行ウ)7号 判決

原告

中 島 直 吉

外四八名

右原告ら訴訟代理人弁護士

大 津 晴 也

萩野谷   興

鈴 木 敏 夫

被告

茨城県江戸崎土地改良事務所長

中 嶋   茂

右訴訟代理人弁護士

中井川 曻 一

右指定代理人

広 瀬   皐

外八名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告が原告中島市、同中島晴男、同中沢芳照、同中沢英一、同中島茂美、同中澤正守、同中島将治、同木村梅及び同中島格次郎に対しいずれも昭和五四年三月二八日付江土改第三二一号をもってした一時利用地指定処分並びにその余の原告らに対しいずれも同日付江土改第三二一号をもってした変更一時利用地指定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

(一) 被告は、茨城県事務委任規則により、茨城県知事から委任を受けて土地改良事業に伴う一時利用地指定等の事務を行っているものである。

(二) 原告らは、後記の本件土地改良事業地域に耕作地を有する資格者である。

2  本件事業計画

(一) 染野一ほか一五名は、茨城県内の龍ヶ崎市、筑波郡谷田部町(昭和六二年一一月三0日市制施行等によりつくば市、以下「谷田部町」という。)、同郡伊奈村(昭和六0年四月一日町制施行により伊奈町、以下「伊奈村」という。)及び稲敷郡茎崎村(昭和五八年一月一日町制施行により茎崎町、以下「茎崎村」という。)にまたがる地域において、散在する浮田の整備と周辺既成田の圃場整備を実施し近代農業の促進と農業経営の安定を図るため、土地改良法八五条二項に定める土地改良事業の計画の概要等を公告し、かつ、有資格者四三二名のうち九八パーセント以上の同意を得て、昭和四六年九月二七日付で茨城県知事に対し土地改良事業(以下「本件事業」という。)の申請をした。

茨城県知事は右申請に対し適当決定をし、土地改良事業計画を定め、これを公告、縦覧に供した結果、右事業計画は昭和四七年五月二四日確定した。その後右事業計画は一部変更され、右変更に係る事業計画(以下「本件事業計画」という。)は昭和四八年一0月三日確定した。

本件事業計画によれば、その施行に係る事業地域は、谷田部町方面から龍ヶ崎市の牛久沼に向け南北に流入する西谷田川の両岸四一五.二ヘクタールの地域で、西側は筑波郡伊奈村(大字東栗山、神生、野堀、大和田、狸穴)及び谷田部町、東側は稲敷郡茎崎村(大字下岩崎、上岩崎)である。

3  本件処分の存在

(一) 前記のように、本件事業地域中央部には西谷田川が貫通しているために、当初本件事業計画は、土地利用上の便宜から、右西谷田川を境として筑波郡側(西側)を第一換地工区と、稲敷郡側(東側)を第二換地工区とそれぞれ定めていた。

(二) ところが茨城県知事は、昭和五三年一二月六日前記換地工区を変更し、上岩崎橋(県道牛久・守谷線)を境として、上流を第一換地工区、下流を第二換地工区と定めた。

(三) そして被告は、右換地工区の変更後に、原告中島市、同中島晴男、同中沢芳照、同中沢英一、同中島茂美、同中澤正守、同中島将治、同木村梅、同中島格次郎、同中沢輝夫、同福島誠一及び同飯野時一に対しいずれも昭和五四年三月二八日付で一時利用地指定処分(以下「本件一時利用地指定処分」という。)をし、また右換地工区の変更に伴い、既に昭和四九年度及び昭和五0年度に一時利用地指定処分を受けていたその余の原告らに対し同日付で変更一時利用地指定処分(以下「本件変更一時利用地指定処分」という。)をした(以下両処分を併せて「本件処分」という。)。

なお、原告中島市、同中島晴男、同中沢芳照、同中沢英一、同中島茂美、同中澤正守、同中島将治、同木村梅及び同中島格次郎に対しては単に「一時利用地指定通知書」をもって本件処分の通知がされており、その余の原告らに対しては「変更一時利用地指定通知書」をもって本件処分の通知がされている。

4  しかし、本件換地工区の変更には手続上及び内容上の違法があるから、これに基づいてされた本件処分も違法である。

5  よって、原告らはそれぞれ当該原告に対する本件処分の取消しを求める(なお、請求の趣旨における本件処分の表示は、通知書の記載に従うものである。)。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3項の事実は認める。

2  同4項は争う。

三  被告の主張

茨城県知事のした本件換地工区の変更は以下のとおり適法に行われたものであるから、これに基づく本件処分も適法である。

1  本件換地工区変更の内容上の適法性

本件換地工区の変更は以下のように合理的な理由により行われたものである。

(一) 本件土地改良事業の施行地域は従前から洪水のおそれがあり、これを防止することが必要とされていたところ、江戸崎土地改良事務所は、たまたま西谷田川の上岩崎橋下流について本件事業計画が公告された昭和四七年四月一0日以後河川管理者である茨城県知事が河川改修工事を開始したのを機会に、昭和四八年、本件土地改良事業に付帯して上岩崎橋の上流について河川管理者の承認を受け河川法二0条に基づく事業として河川改修工事を行うことにした。

(二) ところで、前記のように西谷田川の上岩崎橋上流地域に対する河川改修工事が行われた結果、河川の流心が変わり、従来の右岸と左岸の区別も変動したため、新しく改修された河川の流心をもって換地工区を分けるか、それとも他の方法で換地工区を分けるかということが問題となった。そこで検討が加えられた結果、河川改修に伴う河川敷用地の負担を均等にするためには左右両岸を通じて同一の換地工区にすることが望ましいこと、また、上岩崎橋から上流の地域に対する農用地造成及び区画整理工事が比較的早く終了し、既成部分についてできるだけ早く権利関係を確定させ事業を集結させる必要があることから、上岩崎橋(県道牛久・守谷線)を境として、換地工区を分けることになり、本件換地工区の変更がされた。

(三) そして、右のように換地工区が変更されたことに伴い、被告は、新第一換地工区(第一及び第二工事工区)につき、第一工事工区(旧第一換地工区に属する。)と第二工事工区(旧第二換地工区に属する。)の各一部について既に昭和四九年度と昭和五0年度の二回にわたり行われていた一時利用地指定処分(以下「当初処分」という。)を変更する本件変更一時利用地指定処分を行い、併せて未指定になっていた第一工事工区と第二工事工区の残余の地域について本件一時利用地指定処分を行った。

(四) 以上のように、本件換地工区の変更は合理的な理由に基づくものである。

2  本件換地工区変更の手続上の適法性

本件換地工区の変更は、以下のとおり事業計画の軽微な変更にすぎず、事業計画の決定権者たる茨城県知事において適法に変更しうるものである。

(一) 土地改良法八七条の三第一項は、「土地改良事業の施行に係る地域その他省令で定める重要な部分を変更しようとする場合」には関係権利者の三分の二以上の同意を得なければならないと定めている。しかし、換地工区の変更は事業の対象となる地域に何ら変更をもたらすものではないから同項にいう「地域の変更」にも当たらないし、右にいう省令(昭和二四年八月四日農林省令第七五号土地改良法施行規則六一条の七、三八条の二第一号ないし第三号)で定める重要な部分の変更にも当たらない。したがって、換地工区の変更は、事業計画の軽微な変更に当たるものとして、関係権利者の三分の二以上の同意を要さず、事業計画の決定権者において適法に変更しうるものである。

(二) これを実質的にみても、本件換地工区の変更は原告らの権利を侵害するものではなく、事業計画の重要な部分の変更には当たらない。すなわち、本件換地工区の変更に先立ち一部の原告らに対し当初処分が行われているが、これは本来同一換地工区内においては一時利用地指定処分を一斉に実施すべきところ、本件においては前記のように上岩崎橋から上流の地区の工事が早く終了し、下流地区については数年後になることが予想されたため、工事が完成した上岩崎橋から上流の地区(第一工事工区及び第二工事工区の各半分位の土地)については早急に一時利用地指定処分を行う必要があるとの判断から、あくまで暫定的な処分として行われたものである。したがって、当初処分における配分率が一00パーセントを超えるものであったとしても、関係権利者は確定的な既得権として一00パーセントを超える使用収益権を取得したものではない。

また、被告は本件一時利用地指定計画の立案を茎崎村外五ケ町村土地改良区(以下「土地改良区」という。)に委託したが、被告が知る限りでは右改良区が一時利用地指定計画の立案過程で予め一定の一時利用地指定配分率を決定した事実はないし、まして被告が当初処分にあたって何らかの具体的な一時利用地指定配分率を定めたことも、またかかる配分率を公表したようなこともなかったものである。したがって、この意味でも関係権利者は特定の既得権を有していたものではない。

四  被告の主張に対する原告らの認否

1  被告の主張1項(一)ないし(三)の事実はいずれも否認する。

被告のいう換地工区変更の理由は全く根拠のないものである。そもそも河川の改修に伴う流心の変更は土地改良事業においては当初から折込みずみのものであって、本件事業においても流心の変更を前提として西谷田川を境として第一及び第二の換地工区が設定された。そして、その後西谷田川の改修に伴い流水断面は増大したが、既に定まっている流心を中心として左右両岸に均等に河川敷地が拡がり、深さが増したにすぎず、流心そのものは決して動いたりしたものではない。

2  同2項(一)の主張は争い、(二)の事実は否認する。

土地改良事業に係る地域を変更するときは、その地域の拡大、縮小のいずれにせよ、地域内の資格者らの換地交付率に重大な影響を及ぼすことが明らかであるから、土地改良法八七条の三第一項に定める変更手続が要求されるものというべきである。そして、後記のとおり、原告らの換地交付率は当初一00.七パーセントと定められたが、本件換地工区の変更により九四.四パーセントに減少しているものであるから、地域の変更の場合と同様に同項の定める変更手続が必要であると解すべきである。

五  原告らの反論

本件換地工区の変更は、以下のとおり既に定められていた換地交付率を変更するものであるから、土地改良法八七条の三第一項にいう事業計画の重要な部分を変更するものとして、同項に定める変更手続をとるべきものである。

1  昭和四0年七月二四日付農地局長通達(四0農地B第二五一六号)は、工事着手前に換地計画に関する基礎調査及び換地設計基準を作成するほか、原則として工事の完了前に換地計画を樹立することを促している。また、昭和四七年五月二九日付農地局長通達(四七農地B第八二一号)は、事業採択前に換地設計基準を制定すべきことを促し、これに定めるべき項目は従前地の地積基準、換地交付率の算出、一時利用地の指定方法等であるとしている。

2  被告は、かかる通達に従い換地設計基準を制定し、これを昭和四九年三月ころ開催された土地改良区換地委員会において提示した(被告は、地元の協力体制を維持しつつ本件土地改良事業施行を進めていく方法として、このように土地改良区換地委員会を通じて資格者に説明をし、理解を得るという方法をとっていた。)。右提示にかかる換地設計基準において定められた換地交付率は、第一換地工区が一00.七パーセント、第二換地工区が八七.九パーセントであった。そして被告は、両工事完了後の図面と換地交付率から算出された各資格者ごとの配分面積を書いた図面を換地委員らに交付し、右図面に資格者の割付けを行うよう指示した。

3  各部落選出の換地委員らは、自己の所属する部落に配分される圃場について約一か月かかって資格者の割付けを完了して被告に提出した。原告らが右のとおり割り付けられた土地に作付けし、やがて刈入れがすんだあとの昭和四九年一0月ころ、土浦測量株式会社は被告から依頼を受け、確定測量を行った。そして、原告らの一部の者に対し、昭和五0年初めころ、昭和四八年度工事分の一時利用地指定処分がされ、昭和五0年六月、昭和四九年度分の一時利用地指定処分がされた。これらの一時利用地指定処分は、前記第一換地工区の換地交付率一00.七パーセントに基づいて行われた。このことは、大部分の資格者の配分率がほぼ一00パーセントとなっていることからも裏付けられる(これと一00.七パーセントとの差異については、昭和五0年度以後の工事終了後に調整される予定であった。)。

4  ところが、昭和五一年以降第一換地工区と第二換地工区の換地交付率が異なることに対する第二換地工区の資格者らからの反発が強まってきたことから、被告は昭和五0年度工事分以降の一時利用地指定処分を行わなくなった。そして、その後本件換地工区の変更がされ、原告らに対する換地交付率は九四.四パーセントに減少した。

5  以上のとおり、原告らの換地交付率は、当初一00.七パーセントと定められたが、本件換地工区の変更により九四.四パーセントに減少することとなったのであり、本件換地工区の変更は、地域内の資格者らの換地交付率に重大な影響を及ぼすことが明らかであるから、地域の変更の場合と同様に土地改良法八七条の三第一項に定める変更手続が必要であると解すべきである。

六  原告らの反論に対する被告の認否原告らの反論冒頭及び5項の主張は争う。

1  原告らの反論1項の事実は認める。

2  同2項の事実は否認する。

昭和四七年五月二九日付農林省農地局長通達(四七農地B第八二一号)が発せられた時点において、既に本件事業は採択され、事業計画も決定ずみであった。したがって、本件事業には右通達を適用する余地はなかった。当時としては、昭和四0年七月二四日付農林事務次官通達(四0農地B第八五0号)及び昭和四0年七月二四日付農林省農地局長通達(四0農地B第二五一六号)が存在したが、これらの通達は予め換地設計基準を定めて一時利用地指定をすべきものとは定めていなかったから、実務上換地設計基準を定めるということは行われていなかった。その後昭和四九年七月一二日付農林省構造改善局長通達(四九構改B第一二三二号)が発せられ、一時利用地指定については換地設計基準に基づいて行うべきこととされたが、既に事業の採択がされ事業計画が定められていた本件事業には適用されないという解釈のもとで実務の指導が行われていた。したがって、本件において、原告らのいうように換地設計基準が示されたということはない。

3  同3項の事実のうち、原告らの一部の者に対し一時利用地指定処分が行われたことは認め(但し、その時期は昭和四九年一一月二0日と昭和五0年六月四日である。)、その余は否認する。

昭和四九年一0月ころ行われた測量は図上計算された図面(甲第五号証の一)の面積が間違いないかどうかを確めるために行った実測であり、原告らのいうような確定測量ではない。このことは、右図面に確定測量としては不可欠の道路、水路等の実測面積が記入されていないことからも明らかである。

4  同4項の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3項の事実については当事者間に争いがない。

二原告らは、乙第二0ないし第二九号証の提出は時機に後れた攻撃防禦方法であるから却下を求めると主張する。

右書証は本件口頭弁論が終結された第四三回口頭弁論期日に提出されたものであるが、原告らとしてはこれに対する反論、あるいは反証の提出等を準備する必要があると考えられるから、右書証の提出は訴訟の完結を遅延させるものであることは明らかである。

そして、右各書証の作成された時期と本件訴訟の経過に照らせば、右各書証はより早期に提出することが可能であったものと推認され、その提出が前記口頭弁論期日まで後れたことは少なくとも被告の重大な過失によるものと認めざるをえない。

したがって、右書証についての証拠の申出は、時機に後れた攻撃防禦方法に当たるものとして、却下することにする。

三本件換地工区の変更について

原告らの主張する本件処分の違法事由は、本件処分の前提となっている本件換地工区の変更に手続上及び内容上の違法があるというのであるから、以下、この点について検討する。

1  〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、原告沖田恒雄及び同豊島武の各本人尋問の結果中の右認定に反する部分は信用することができないからこれを採用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件事業の構想は昭和四0年ころから関係者の間で持ち上がっていたが、県営事業として行う方向で次第に具体化し、昭和四五年ころには茨城県において計画の概略を作成し、費用の一部につき国の補助を受けるための農林水産省との折衝や土地改良区理事会、部落懇談会を通じての関係者に対する説明が開始された。

本件事業において資格者となる者らは、施行地域全体について換地交付率の公平が保たれるように事業を推進するという前提のもとに本件事業に賛同した。

一方、換地工区については、農林水産省との折衝の過程で本件事業の施行に係る地域の面積(本件事業計画書によれば四一五.二ヘクタール)からすると二つの区に分けた方が良いとの助言があったため、地域内中央を貫流している西谷田川(上岩崎橋より下流は谷田川及び牛久沼)を境として右岸(西側、第一換地工区)と左岸(東側、第二換地工区)の二つの区に分けられることになった。

そして染野一ほか一五名による昭和四六年九月二六日付本件事業を県営事業として行うべきことの申請を受け、茨城県知事は、適当決定をし、土地改良事業計画を定め、その後その一部を変更し、当初事業計画は昭和四七年五月二四日に、変更後の本件事業計画は昭和四八年一0月三日に、それぞれ確定した。

(二)  本件事業における換地計画事務は、土地改良区内に置かれた各部落を代表する委員によって構成される換地委員会の協力を得て行われることになり、昭和四八年一0月八日換地事務研修会が開かれ、換地計画事務のあらまし、換地委員の任務と心得等について県の職員から換地委員に対し説明がされた。

(三) 当初計画及び本件事業計画において、本件事業の施行地域は西谷田川(上岩崎橋より下流は谷田川及び牛久沼)の右岸(第一工区)と左岸(第二工区)の二つの換地工区に分けられていたが、施行地域全体について換地交付率の公平が保たれるようにするという基本方針を反映し、各計画書中の換地計画における予定地積一覧表によれば、第一工区の農地用の従前地面積一五五.三ヘクタール、換地面積一四九ヘクタール、第二工区の農用地の従前地面積一六0.一ヘクタール、換地面積一五三ヘクタールとなっており、換地面積の従前地面積に対する比率は両工区とも九六パーセントと同じ値になっていた。

しかし、西谷田川については後記のとおり改修工事が予定されており、その流心は直線化を伴う右改修工事により移動するのであるから、移動する線を境とする換地工区の分け方にはそもそも問題があったほか、右岸と左岸の間に前記比率の均衡を保つためには、従前の右岸にあった土地が流心の変化により左岸になるといった土地の出入り、旧堤内の土地が新たな河川敷となり旧河川敷が新たな堤内の土地となるといった土地の出入り、従前川の中に存在していた浮田(牛久沼に生育している藻の上に造成された田)を改修後の右岸左岸どちらの岸に移動するかといった土地の出入り等を右岸と左岸において均等にしなければならないという問題があった。

(四)  西谷田川(上岩崎橋上流)はくねくねと蛇行する河川であったため、当初計画においても幹線排水路として直線化する予定であったが、本件事業計画においては河川法二0条に基づく河川工事として改修することになり、これに伴い、その計画排水量は当初計画の毎秒一九.七立方メートルから毎秒六0.二立方メートルに増大し、川の上幅も当初計画の一八メートルから二七メートルに、上岩崎橋から上流五00メートルの区間については特に四六.五メートルに、広がることになった。

(五)  本件事業における工事は、施行地域全体を五つの工事工区(第一換地工区のうち上岩崎橋上流が第一工事工区、下流が第三工事工区、第二換地工区のうち上岩崎橋上流が第二工事工区、下流が第四及び第五工事工区)に分けたうえ、数年度にわたって行われ、昭和四八年度(初年度)の工事としては第一、第二及び第五工事工区の各一部についての工事が、昭和四九年度の工事としては右四八年度工事の繰越工事及び第五工事工区の他の一部についての工事が行われた。

県は、本件事業の工事が数年度にわたり、全体の工事が完了し換地処分に至るまでに長期間を要することから、工事が終了し耕作可能となった地域について各年度毎に一時利用地指定を行っていく方針をとり、換地委員会においてその旨説明した。

右一時利用地指定に関する事務は、茨城県知事から委任を受けている被告から土地改良区に委託され、昭和四八年度及び昭和四九年度の一時利用地指定においては、県の職員から工事の終了した各地域に該当する部落の換地委員に対し当該地域における従前農地の公簿上の面積、工事後農地の図上計算面積及びその比率等が示され、右比率に従って換地委員が部落の各資格者に対する図上割付けを行うという手順で一時利用地指定計画案が作成され、これに基づいて、昭和四八年度工事分につき昭和四九年一一月二0日に、昭和四九年度工事分につき昭和五0年六月四日に、被告による各一時利用地指定処分が行われた。

(六)  西谷田川を境とする換地工区の分け方には前記のとおり問題点があったが、河川改修工事が進捗するにつれ、右岸と左岸の間に換地交付率の均衡を保つように調整していくことは困難であり、本件事業計画において予定されていた左右両岸の換地交付率の均衡が破れ、不相当な換地交付率の格差が生ずることが予想されるようになり、昭和五0年度工事分につき一時利用地指定に関する事務を始めるべき時期になると、県において換地工区変更の必要性を強く意識するようになった。

そこで、県は、換地設計基準書案と共に、西谷田川を境とする換地工区区分のまま従前の手順による一時利用地指定処分を続けていった場合各工事工区間に配分率にどれ程の差異が生じるかを図上計算により算出した表を作成し、昭和五一年三月三日開催の換地委員会においてこれらを配布し、換地設計基準書案及び予想される換地交付率の不均衡の是正について関係者の意見調整を求めた。右表における第一換地工区の平均配分率は一00.七パーセント、第二換地工区の平均配分率は八七.九パーセントであった。

右換地委員会においては、換地処分における換地交付率は本件事業の施行地域全体について均一にするという基本方針が再確認されたほか、既にされた一時利用地指定処分により生じている一時利用地の配分率における不均衡をどうするかが議論され、西谷田川を境とする換地工区区分のまま従前の手順による一時利用地指定処分を続け換地処分の段階で不均衡を是正するか、一時利用地の配分率においても均衡を保つためこの段階で換地工区を変更したうえ既にされた一時利用地指定処分の変更を含め一時利用地の再配分を行うか、につき意見が分かれたため、この点については継続して議論していくことになった。

(七)  以後、換地委員会においては、一時利用地の配分率においても均衡を保つため一時利用地の再配分を行うべきであるという意見が多数を占め、既にされた一時利用地指定処分により全体の平均配分率よりも有利な配分を受けている第一工事工区内の狸穴及び大和田地区の換地委員のみがこれに反対した。

県は、換地工区変更の問題につき、当初区分をなくす方向で検討していたが、上岩崎橋から上流の地域の工事が早期に終了するため、右工事終了地域についてできるだけ早く権利関係を確定させることが望ましいとの配慮から、新たに上岩崎橋(県道牛久・守谷線)を境として上流(第一換地工区)と下流(第二換地工区)に分けたうえ、両工区について同一の配分率で一時利用地指定処分をやり直すという方針を定め、これを関係者に説明した結果、換地委員会は、一時利用地の再配分を行うべきであるとの多数意見に従い、昭和五三年二月二日、上岩崎橋を境とする新たな換地工区区分を確認する旨議決し、資格者の三分の二以上の者が新たな換地工区区分に賛同する状況となった。

(八)  以上の経緯により、昭和五三年一二月六日茨城県知事は本件換地工区の変更をし、これに伴い、被告は昭和五四年三月二八日付で本件処分をした。

2  本件換地工区変更の内容上の違法の有無について

前記1認定の各事実によれば、本件事業においては、施行地域全体について換地交付率の公平が保たれるように事業を進めるという基本方針があり、西谷田川を境とする換地工区の区分によっても右公平は保たれるものと予測されていたが、西谷田川の改修工事が進むにつれ、右工事に伴う土地の出入りを左右両岸に等しく振り分けることは難しく、左右両岸の間に許容し得ない不均衡が生じることが明らかとなり、右不均衡是正のため換地工区の変更が必要となったこと、新たな換地工区については、西谷田川の改修工事に伴う負担を左右両岸に等しく配分し、かつ、工事が早く終了する上岩崎橋から上流の地域について早期に権利関係を確定させるという配慮のもとに、上岩崎橋(県道牛久・守谷線)を境として上流と下流に分けることとしたことが認められ、本件換地工区変更には変更の必要性及び内容の合理性が認められる。

なお、原告らは、西谷田川を境として換地工区を定める時点において河川改修工事により左右両岸に不均衡が生じることは既に予測されていたはずであり、右不均衡は認容されていたはずであると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件換地工区の変更に内容上の違法があるとする原告らの主張は、理由がない。

3  本件換地工区変更の手続上の違法の有無について

(一)  本件換地工区変更につき土地改良法八七条の三第一項の定める手続がとられていないことについては、当事者間に争いがない。

(二)  原告らは、本件事業における換地交付率は当初一時利用地指定処分がされた当時既に定められていたと主張し、右主張を前提として、本件換地工区変更は既に定められた換地交付率の変更をもたらすものであるから事業計画の重要な部分の変更に該当し、同法八七条の三第一項の定める変更手続が必要であると主張する。

そこで、換地交付率が既に定められていたか否かについて検討する。

原告らは、被告が第一換地工区の換地交付率を一00.七パーセント、第二換地工区の換地交付率を八七.九パーセントと定めたうえ、昭和四九年三月ころ開かれた換地委員会において右換地交付率を示した旨主張し、原告沖田恒雄は、昭和四九年三月ころ開催された換地委員会において県の職員から本件事業についての説明がされた際に甲第一ないし第三号証の資料が配布され、このうち甲第一号証の二記載の配分率(第一換地工区一00.七パーセント、第二換地工区八七.九パーセント)についてはこれを換地交付率として示され、右換地交付率に従って当初一時利用地指定処分がされた旨供述する。

しかし、前記1認定のとおり、本件事業は施行地域全体について換地交付率の公平が保たれるようにするという基本合意のもとに進められていたのであるから、当初一時利用地指定に関する事務を始める段階の換地委員会において換地処分における換地交付率が第一換地工区一00.七パーセント、第二換地工区八七.九パーセントとなることが示されたとするならば、かかる均衡を失した換地交付率が地域全体の換地委員に異議なく受け入れられたとは到底考えられず、かえって、右資料のうち甲第三号証の欄外に「昭和五一年三月三日片岡」との書込みがあり、原告沖田恒雄本人尋問の結果によれば、片岡は大和田地区の換地委員であったことが認められること、前記1認定のとおり、昭和五一年三月三日開催の換地委員会においては換地処分における換地交付率を地域全体について均一にすることが再確認されたほか、既にされた一時利用地指定処分により生じている一時利用地の配分率における不均衡をどうするかが議論されていることからすると、甲第一号証の二の資料は甲第三号証の資料と共に昭和五一年三月三日開催の換地委員会において配布されたものと考えるのが合理的であり、原告沖田恒雄の右供述は信用することができず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

なお、前記1認定のとおり、当初一時利用地指定処分においては一時利用地指定に関する事務が被告から土地改良区に委託され、県の職員の指示に従って換地委員が割付け作業を行い、その際県の職員から当該換地委員に対し割付けの基準となる比率が示されたことが認められるが、右比率は、当該年度に工事が終了し耕作が可能となった地域について一時利用地指定を行うにつきその地域内限りの公平を保つために算出された数値にすぎず、工事工区毎に算出されたものでも換地工区毎に算出されたものでもないのであるから、右比率をもって換地交付率と認めることはできず、右比率によって関係権利者らが何らかの確定的な権利を取得したと認めることもできない。

また、〈証拠〉によれば、昭和四0年七月二四日付農林省農地局長通達(四0農地B第二五一六号)は、換地計画の指導方針について一時利用地の指定をする場合には原則として換地計画が樹立された後において換地計画に定められた事項に基づいて行うべきものとし、昭和四七年五月二九日付農林省農地局長通達(四七農地B第八二一号)は、換地設計実施要領について換地設計基準を事業採択前に作成すべきものとしていることが認められるが、本件事業において当初一時利用地指定処分がされる前に既に換地交付率が定められていたか否かは本件事業の具体的進捗状況に基づいて判断すべきであり、右通達の存在のみをもって既に換地交付率が定められていたと認めることはできない。

そして、他に換地交付率が既に定められていたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、換地交付率が既に定められていたとする原告らの主張は、理由がない。

(三) 以上のとおり、本件事業においては当初一時利用地指定処分がされた当時具体的な換地交付率は定まっておらず、施行地域全体について公平が保たれるように換地交付率を定めるという基本方針があったにすぎないのであり、右基本方針を具体化するために本件換地工区の変更がされたのであるから、本件換地工区の変更は、地域内の資格者らの換地交付率に変更をもたらすものではないというべきである。

そして、本件換地工区の変更は、土地改良法施行規則六一条の七、三八条の二に定める主要工事計画の変更や管理すべき施設の種類及びその管理の方法の変更あるいは事業費の変更をもたらすものでもないのであるから、結局、事業計画の重要な部分の変更には当たらず、土地改良法八七条の三第一項の定める変更手続による必要はないものと解するのが相当である。

(四)  したがって、本件換地工区の変更に手続上の違法があるとする原告らの主張は、理由がない。

四以上のとおりであるから、本件換地工区の変更に手続上及び内容上の違法があることを本件処分の違法事由とする原告らの本訴請求は理由がない。

よって、原告らの本訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官山崎まさよ 裁判官神山隆一)

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